こんにちは。
グラフィックファシリテーター(R)やまざきゆにこです。
今日は描きません、喋ります(#^^#)ということで、このページは先日、登壇させていただいた「TCシンポジウム」のパネルディスカッションでご紹介した話を紹介します。
TCとは=テクニカルコミュニケーター
取扱説明書(紙やWEBなど形式は多岐にわたります)に関わる製品と利用者や施工者をつなぐコミュニケーションのプロの方たちの呼び名です。
1つ前の投稿で「丸投げ」の絵を紹介していますが、こちらは上の写真とタイトルにもある通り、わたしの父の言葉と、家具職人をしていた父が常に右耳に載せていた消しゴム付きの鉛筆の写真です。
線を一本引くことに「億劫がっちゃいけねえよ」
これはわたしがふと父に、悩みを吐露したときにもらった言葉です。父は今は他界していますが、当時、認知症が進んでいて、まっとうな会話のやりとりできない状態でした。そんな父と二人で昼ご飯を食べていたとき、わたしはただ、返事も期待せず、独り言ちてました。
「みんな自分でも会議で絵を描いてみたいっていうわりに、ペンすら手に持たないんだよね~」
わたしのグラフィックファシリテーションを体感した方たちの中から毎回1人2人と「わたしも会議で絵を描いてみたい」と言ってくださる方が現れるのですが、「ぜひ今この場から付箋に落書きしちゃってください!」と伝えるものの、なかなかペンを手にすら取らない。そんなことを父に吐露してました。するとそのときの父は覚醒したかのようにこう言ったんです。
「みんな億劫がってるだけじゃねえのか」
「俺たちの世界は、俺も小学校しか出てないし、みんなバカだからさ、やってみせてやらないと分からねえんだよ」
「大きな材木一本にネジの穴をあけるにしても、空ける場所を間違えたら、ウン千万円もダメにしちゃうこともある」
父はものすごく無口な人間で、近所の人は『おたくの社長の顔を見たことがない』と言われていたくらい人つきあいが苦手な人でした。そんな父は、常に耳に鉛筆をひっかけていて、何かあると、チラシの裏紙にチャチャチャと書いて説明する人でした。
「なんでお父さんは書くのが当たり前になったの?職人さんの世界はそういうもの?」
「兄弟子がさ『おい康夫(←父の名前)。ここにネジ穴開けとけ』って言ったとき、地面に一本線を引いてよ、『ここですか?』って聞いたら、『おおそうだよ、康夫、分かりやすいな』って言われたんだよ」
このエピソードをしゃべったときの父は、これまでに見たことないくらい、めちゃくちゃ嬉しそうに笑ってました。認知症が進んで普通の生活を一人では過ごせなくなっていた状態なのに、まるで覚醒したかのようにものすごく嬉しそうにニコニコ語っている。
言葉足らずでコミュニケーションに不器用な父が「伝わった」「分かりあえた」その喜びが、当時まだ幼い父の原体験が、その後も鉛筆で線を引くのが当たり前にさせたんだと知りました。
「でも、ゆにこ、やたらめったら描いてもいいってもんじゃないぞ。ちゃんと正しく穴をあけるためには複雑にしちゃあだめだ」
「たった一本線を引くだけでいいんだよ」
目的は、実行。絵を描くことじゃない。わたしが今している仕事と同じだ。わたしの仕事の指針にもなった会話でした。
それにしても仕事をするオフィスワーカーの多くの悩み「指示が伝わらない」をたくさん描いてきました。それを伝えると父曰く。
「クチダケで言ってんじゃねえのか」
はい、その通り。
「でも絵を描くのが億劫だから、ゆにこが代わりに描いてやってんだろ」
とも言われました。はい、その通り。でもやっぱり絵を描くのって体力との闘いだから億劫がってプライベートでは一切描かないけれど、話がかみ合わないたびに、この父の言葉が耳の奥でこだまします。
「億劫がっちゃいけねえよ」
テクニカルイラストを発注する側と発注される側のそれぞれのモヤモヤ。「分かりやすいイラストで」と依頼された側は「え?」とモヤモヤ。発注した側も「伝えたつもりなのに思ったようなイラストが上がってこない」とモヤモヤ。
そんなモヤモヤがうまれる多くの職場で起きているのは、一方的な「指示」だけで終わっていることが多いです。そして、伝える側が一生懸命「わかりやすく伝えなければ」と思っていて、受け取る側は「説明が下手、わかりやすく伝えてくれないと分からない」と訴えている。ただ結果的に、指示を受ける側がやり直しをせまられたりという負担も生まれています。
指示だけ=情報の共有はされているけれど、感情の共有がされていない。そんな場に呼ばれているのがグラフィックファシリテーター(R)なのですが、そこで分かりあえるためにも、わたしは億劫がらず一本の線でもいいから描いて貢献したいと思いました。
テクニカルイラストという手を動かせる達人がたくさんいる世界なら、このお話が通用するのではと思って話させていただきました。
今回の登壇テーマがこちら↓
■タイトル TC28パネル
「わかりやすい絵を描いてよ!」はもうやめて!
~ テクニカルイラストの発注モヤモヤからテクニカルコミュニケーターとして新しい表現の未来を!~
この日わたしは「発注者する側とされる側のモヤモヤ」を解決するヒントを探るため、モヤモヤ解決のプロとしてアサインしていただきました。パネルディスカッションだけで2時間30分もあるという贅沢な企画。
そしてなんとなんと満員御礼🎉みなさん気になるテーマなんですね。聴講された皆様と個別に会話できなかったのが個人的にはめちゃくちゃ残念でしたが、わたしには全く知らなかったマニュアル作成の奥の深い深い深い世界に触れられて学びの多い一日となりました。
■対象とする聴講者
テクニカルコミュニケーター
テクニカルイラストレーター
制作の現場で、モヤモヤしたことがある方
■セッションの企画意図と概要
「わかりやすいイラストでお願いします。」
テクニカルコミュニケーターなら、一度は言われた経験がありませんか?
そして、その一言にモヤモヤした経験がありませんか?
でも、こんなモヤモヤは他の業界でも起きています!
このセッションでは、出版業界から『Web Designing』誌編集長 岡 謙治氏を
コーディネーターに、そして多くの組織やプロジェクトが抱えるモヤモヤを
独自の手法で解決に導いてきたグラフィックファシリテーター🄬 やまざき ゆにこ氏をパネリストに迎え、テクニカルコミュニケーター2名の本音(モヤモヤ)を聞き出し、解決の糸口を探っていきます。そのモヤモヤの先に新しい表現方法にたどり着くためのヒントが見つかるしれません。
本セッションは、イラスト制作業務を中心に現場のモヤモヤをどう解決していけばよいか、そして新しいイラスト表現へと繋がる「何か」について
ディスカッションしていきます。
■コーディネーター
株式会社マイナビ出版 雑誌『Web Designing』編集長 岡 謙治さん
■パネリスト
グラフィックファシリテーター🄬 やまざき ゆにこ
株式会社第一創版 山垣 充さん
パナソニック ハウジングソリューションズ(株) 中原 司郎
■企画担当者
株式会社情報システムエンジニアリング 黒田 聡さん
3日間にわたる「TCシンポジウム」以下、タイムテーブル、ご覧ください!説明動画やChatGPT、パーソナライズのWEB導線や新しいISO基準の話など多岐に渡ります。
■「TCシンポジウム」公式サイト
https://jtca.org/symposium/tc-symposium/
テーマ: こんなところにも使えるんやって、TC(知らんけど)
■日時:10月5日(木)14:00-16:30
■会場:京都リサーチパーク 1号館4階G会議室
https://www.krp.co.jp/access/
JR嵯峨野線(山陰線)2駅(約5分)丹波口駅下車 西へ徒歩5分
■タイムテーブル
https://jtca-web.com/technical-communication-session-2023/timetable/
さいごに、門外漢である私から見た、TCの世界への想いを2つ。
グラフィックファシリテーションは商品が生まれる上流での議論をご支援する事が多いのですが、この最終工程!カスタマーとの接点を司る取り扱い説明書をとり巻く知見こそ、再び上流工程へ生かされるループが生まれてほしいと心から思いました。私も次回、上流工程を絵巻物でご支援するときはTCの世界を勝手に描いて語ろうと思います!
また、絵巻物という未来へつながる対話を描く者として、TCにどんな未来を描くかといえば、トリセツを創るゴールを「分かりやすく取り扱い説明書をつくる」と置くのではなく、さらに一歩先のワクワクするチャレンジングなビジョンをおいて制作できると、本来の創る楽しみを味わいながら進めると思いました。
たとえば
小学生でも分かる組み立てマニュアル
とか
ぜったい失敗しないセットアップ
とか
とりあえず流れをつかむ5ステップ
とか。
いや、もっと先の、ユーザーがトリセツから商品を選ぶくらいの世界、トリセツが読み物として楽しいと話題になる世界を描いてもみたい。(実際、わたしは昨年、加湿器の購入を検討していたとき、トリセツを読み比べ、いちばん手入れがらくちんな今の加湿器に決めました)
発注する側とされる側が向き合うのではなく、横に並んでカスタマー目線で
同じビジョンに向かうこと。これは、グラフィックファシリテーションが普段ンご支援いているすべての場に共通して提供している価値でもあります。
取り扱い説明書の製作過程にも、ワクワクするビジョンを🌈そのためのモヤモヤです!